ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)は、単球・マクロファージ・樹状細胞に由来する細胞が全身に集簇する組織球症(Histiocytosis)の中で最多の疾患である。LCHという疾患名は1980年代になり初めて登場したものであり、それまでは「好酸球性肉芽腫症(eosinophilic granuloma: EG)」「Hand-Schüller-Christian病(HSC)」「Letterer-Siwe病(LS)」、あるいは「Histiocytosi X」という疾患名が用いられてきた。現在では、LCHの細胞起源は、骨髄中の未熟樹状細胞であることが明らかとなっている。さらに、BRAF V600EなどのMAPK経路遺伝子異常とそれに伴うoncogene-induced senescenceによる組織へのLCH細胞の集簇と炎症細胞によるサイトカイン・ケモカイン産生による組織破壊の2つの特徴を有しており、現在では「炎症性骨髄 腫瘍”Inflammatory myeloid neoplasm”」として認識されている(図1:LCHの病態)
国内においては年間約100例の発症が認められ、2歳以下の乳幼児に好発する疾患であるが、成人から高齢者を含めたあらゆる世代に発症する(全体の約20-30%は成人例である)。LCHは病変の存在する臓器の数と場所によって単一臓器型と多臓器型に分けられる。乳幼児では多臓器型が多い傾向が認められ、単一病変型は幅広い年齢層に発生し、骨病変は年長児に多い傾向がある(図2:JLSG-96/02試験に登録された小児LCHの病型と年齢の関係)。
LCHの病型はLCHが浸潤する臓器の数と場所によって分類される。LCHは病型ごとに自然経過が異なるため病型の確定は非常に重要である。まずは浸潤する臓器が、「単一」あるいは「複数」によって1臓器にのみ病変が限局した単独臓器型(Single-system型: SS 型)と2つ以上の臓器に浸潤を認める多臓器型(Multi-system型:MS型)に分類される。単独臓器型は病変が1か所のみの単独臓器単一病変型(Single-system single-site 型:SS-s型)と、病変が多発している単独臓器多発病変型(Single-system multi-site 型:SS-m型)に分類され、2つ以上の骨に病変を有するものは特に多発骨型(Multi-focal bone型:MFB型)と呼ばれる。また、成人においては肺のみに病変を有する肺単独型が存在する。MS型は、リスク臓器(Risk organ; RO)とされる肝臓(肝腫大)、脾臓(脾腫大)、造血器(2系統以上の血球減少)に浸潤があるかどうかによって、リスク臓器浸潤のない多臓器型リスク臓器浸潤陰性:MS-RO(-)と浸潤のある多臓器型リスク臓器陽性:MS-RO(+)に分けられる(図3)。
LCHが浸潤する臓器は多岐にわたるが頻度の高い臓器は「骨」・「皮膚」である(図4:JLSG-96/02試験に登録された小児LCHの病変部位)。LCHによる骨病変は溶骨性病変であり、病変の形成による軟部組織の腫脹と骨融解に伴い様々な臨床症状を呈する。骨病変は痛みを伴う事が多く、レントゲンでは溶骨を反映した” Punched-out lesion”を示す。その他、骨破壊に伴う中耳炎、歯牙脱落、骨折、扁平椎や軟部腫瘤形成による眼球突出や脊髄圧迫症状などをきたす。皮膚病変は赤みの強い出血性丘疹や脂漏性湿疹が特徴的だが、多彩な皮疹を呈する。さらに、肝臓(肝腫大)、脾臓(脾腫大)、造血器(2系統以上の血球減少)は「リスク臓器」と呼ばれ、これらの臓器に浸潤のあるLCHは生命予後が不良であることが知られており注意が必要である。視床下部から下垂体部分の浸潤により、中枢性尿崩症を生ずる例がLCHの20%ほどにみられる。さらに下垂体前葉機能低下をきたす例もある。
臨床所見からLCHを疑った場合は、血液検査と共に、画像検査(レントゲン、CT、MRIなど)によって病変部位の評価と全身検索を行う。LCHの確定診断には病変部位の生検によって病理組織学的検査を行うことが必要である。生検を行う部位は安全かつ検体が十分に採取できる部位を選択することが重要である。病変部位には、卵円形の核にくびれやしわと溝などの異型性を伴う組織球(LCH細胞)が集簇して存在し、周囲には様々な炎症細胞が存在する。免疫組織学的検査では、LCH細胞に一致してCD1aとランゲリン(CD207)が陽性である事が特徴的である。また、生検検体を用いて、BRAFV600EなどのMAPK経路遺伝子変異を検索する事も診断には有用である。
LCHの治療方針は病型によって異なる。単独臓器単一病変型(Single-system single-site 型:SS-s型)では自然治癒することもあり対症療法のみとする事もあるが、疼痛などの臨床症状が強い場合や脊髄圧迫症状などのリスクを有する椎体病変などの場合には化学療法などの治療介入を行うこともある。多発骨型(Multi-focal bone型:MFB型)と多臓器型(Multi-system型:MS型)は、化学療法による治療介入が必須である。LCHに対する化学療法のキードラッグは、コルチコステロイドおよびビンカアルカロイド系抗がん剤(ビンクリスチン、ビンブラスチン)である。日本においては、これらにシタラビンを加えた多剤併用化学療法が小児LCHに対する標準治療とされている。